【タゴールの詩】

「おお、詩人よ、夕べが迫って」

「おお、詩人よ、夕べが迫って、お前の髪は灰色に変わってきた
お前はお前の孤独な瞑想の中で、来世のたよりをきこうとしてるのか?」

「もはや夕暮だ」と詩人は言った。「私は耳をすましているが、それは村から誰かが訪ねてきてはしないかと思うからだ。
もはや遅くはあるけれど。
私は見張っているのだ―――もしさまよっている二つの若い胸が出あって、双方の熱い瞳が彼らの沈黙を打破って
代わりに語ってくれる音楽を求めていはしないかと。

もし私が生の岸辺に坐って死と彼岸のことを瞑想しているなら、誰がいったい彼らの情熱的な歌を織りあげてやるのか。

宵の明星が消えてゆく
屍を焼く薪の山も徐々にひっそりとした湖畔で消え落ちる
ジャカルの叫びが疲れはてた月光の中の荒廃した屋敷の庭から聞こえてくる
もし誰か旅人が、家を離れてここへ夜を見つめに来て、頭を垂れて闇の呟きに
耳をすます時、もし私が扉を閉してこの世の絆から自分をとき放そうとしていたなら、
いったい誰が彼の耳に生の秘密をささやいてやれるのか?


私の髪の毛が灰色に変わりつつあるなどは取るに足らぬ些事
私はつねにこの村の一番若い者と同じだけ若く、また一番年をとった者と同じだけ年とっている
ある者は甘やかで単純な微笑をもち、ある者は眼の中にずる賢いまばたきを秘めている
ある者は昼の光の中に迸りでる涙をもつが、他の者の涙は闇の中に隠されている
彼らはすべて私を必要とするのだ。そこで私は死後の生涯を思い煩っている暇がない
私は彼らのそれぞれと同じ年令なのだ。私の髪が灰色になろうとそれが何だろう。

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タゴール詩集より抜粋】